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日本のHIPHOPのムーブメントは、とあるHIPHOPクルーによって大きく運命が変わったと言っても過言ではありません。そのクルーの名前こそが、BAD HOP。そして今回はそのクルーの中の絶対的スターであり、HIPHOPのアイコン的存在のT-Pablowについて解説させてもらいます。
彼がHIPHOPにもたらしたのは、「革命」そのものでした。
↓BAD HOPについてはこちら↓
荒れた幼少期
通称「日本のゲットー」とも呼ばれる神奈川県川崎市にて1995年11月3日、双子の弟YZERRと共に生まれます。他に兄弟はお姉さんとお兄さん(MASAとしてBADHOPに携わっています)がいます。
彼らの不良人生は幼稚園の頃から始まっており、かの有名なゴキブリギャングスタなるものを結成していました。メンバーはBADHOPのメンバーでもあるT-Pablow、YZERR、Bark、Tiji Jojoの四人。実質BADHOPの原点です。
父親は事業に失敗し昼から酒を飲むようになり、更にギャンブル中毒だったため多額の借金を理由に両親は離婚してしまいます。その後は母子家庭で育ちますが、ヤ●ザの取り立てがやってくることも日常的にあったという異常とも言える環境で育ちます。
当時は辛かったでしょうが、この頃のエピソードも2Win「PAIN AWAY」という曲にすることで昇華しており、この兄弟は最高にHIPHOPです。
”多額の借金抱えた母子家庭
怒鳴り散らしてるヤクザの取り立て
真夏なのに布団かぶって震えてた”
他の人にとっての当たり前が当たり前じゃなかった彼らの小学生エピソードの一部を紹介すると、
・小学生にも関わらず他校に喧嘩を売りに行く
・小2で金髪スカジャンの同級生がいる
・将来の夢に「ヤ●ザ」と書く
・煙草を吸っている
う〜ん、漫画かな?
仲間たちの逮捕〜HIPHOPとの出会い
そんな荒れた幼少期の中で大きな転機となったのが、HIPHOPとの出会いでした。小学4年生のとき、地元のTSUTAYAでZeebraのDVDのジャケットを見かけたT-PablowとYZERRは編み込みの髪型をしたZeeblaのジャケット写真に衝撃を受け、HIPHOPを知るようになります。入り口は日本語ラップに傾倒していましたが、2つ上の兄MASAから海外のHIPHOPを教えてもらい、聴き始めるようになります。
そんな彼らも中学校へ進学するのですが、非行もエスカレートしていきます。川崎で不良として生きていくには「上納金」というシステムがあり、それを納めるためには悪いことをして稼ぐしかありませんでした。ラジオなどでも口々に語られた、「川崎の不良には自由がない」というのはこういう背景もありました。
当然中学生がそんなことをしていたら警察から目をつけられないはずもなく、メンバーのYZERR、Tiji Jojo、G-kid、兄のMASAが集団逮捕の対象になり少年院に入所させられます。そんな絶望的な環境中、アメリカに住むおばさんから声がかかります。
「マイルが貯まっているからアメリカへおいで...」
この言葉が後のT-Pablow、いや日本のHIPHOPの運命を大きく変える運命の出来事となるのでした。
アメリカで受けたカルチャーショック
そうしてアメリカへ渡ったT-Pablowがストリートで見た光景は、衝撃的なものでした。
ガラクタで作ったドラムセットで演奏していたり、ホームレスのような格好でもラップをして日銭を稼いでる人たち。過酷な環境でも自分のスキルでお金を稼ぐ光景を見て、
「自分は今まで普通の人たちにあって自分には無いものばかり目についていたけど、この人たちは0から、むしろマイナスから積み上げていっているんだ。自分は環境を言い訳に甘えていたんだ…」
と悟ります。それをおばさんに話したところ、「その歳でそこに気付けるのはいいことだよ、まずはリリックを書いてみなさい」と助言を受け、アメリカの色んなところに連れて行ってもらったりして帰国します。渡米時はパンチパーマのヤンキーファッションであったのに、帰国時には坊主、ダボダボのファッションとUSの文化にモロに影響を受けて帰ってきたT-Pabowはそれを仲間内にも共有し、塀の中と文通でやり取りしていた兄弟ともリリックで手紙を交換するようになります。また、1つ年上の先輩であったBAD HOPのBenjazzyと一緒にBAD BOY PARKを観に行ったのもこの頃でした。
2度の高校生ラップ選手権優勝
その後、T-Pablowはラップを初めて数カ月、真木蔵人やZeebraの目に留まり、第1回高校生ラップ選手権に出場します。リアルタイムで全試合見てましたが、結果は圧勝でした。決勝で飛び出したパンチライン、
「俺らで回そうぜ ラップでこの国の経済」
現在まで語り継がれるこのパンチラインは、やがて現実のものとなります。
しかし、その後HIPHOPと距離を取ることになります。(この辺の事情はセンシティブで、無責任なことは語れないので割愛させていただきます。)
その後復帰して迎えた第四回高校生ラップ選手権、こちらも見事に優勝しました。第四回にもなると流石に大会の規模もラッパーのレベルも上がっており、激戦の中のベストバウトも多く生まれました。この大会のT-Pablow関しては全部かっこよかったです。中でも一番食らったパンチラインはやはり決勝の、
「T-Pablow ガキの頃から口癖は革命」
かっこよすぎるでしょ。並のラッパーじゃ似合わない言葉で、T-Pablowにしか出せないパンチラインでした。
この2連覇により世間にも大きく認知されることになったT-Pablow。注目されたのは音楽だけでなく、ファッションによる影響も大きかったです。とくに顕著だったのは2017年、「Ocean View」がリリースされた直後はビックシルエットTシャツにGUCCIの帽子という人ばっかりでしたもんね。そのように若者が憧れるファッションリーダー、かっこいいラッパーという唯一無二の存在に爆発的に人気が出ました。
その後も躍進は止まらず、フリースタイルダンジョンの初代モンスターとしてラップスキルの高さを見せつけ、(今思えば地上波で定期的にT-Pablowのバトルが見れてたのは超贅沢ですよね)その知名度と実力を世に知らしめました。BAD HOPとしても最年少武道館ワンマンライブ、セルフプロデュースにもかかわらず東京ドーム解散ライブを成し遂げるなど数々の偉業を成し遂げていくことで今まで注目されてこなかった日本のHIPHOPシーンそのものを大きく変えました。今日の日本のHIPHOPシーンにおいてT-Pablow、BADHOPが建てた金字塔の影響力は未来永劫語り継がれていくことでしょう。
バトルでのT-Pablow
先述した高校生ラップ選手権を皮切りに、フリースタイルダンジョンで数々の名バトルを生み出してきたT-Pablow。そのスキルフルかつ圧倒的なカリスマ性は当時の群雄割拠の若手の中でも飛び抜けた実力を持っていました。T-Pablowのフリースタイルはもっと見たくなるような中毒性があるにもかかわらず、残念ながら公式の動画が残っているバトルは殆ど残っていません。なのでここでは2つのバトルについて紹介させたいただきます。
KOK【T-Pablow vs ISSUGI】
このバトルは本当に大好きです。バンチライン連発でした。そして特筆すべきは、延長での発言全て有言実行してきたこと。
”俺が何言いてぇか
まず俺がなってやるよHIPHOPの実験台
俺がメジャーとかインディーとかの壁を取っ払ってやるよ 嘘じゃねぇよ”
言葉通り、T-Pablowは自らが盛り上げてきたバトルムーブメントに上手く乗り若手の中でも試行錯誤し先陣を切って活躍してきた、まさに被検体のような存在でした。またHIPHOPインディーズにもかかわらずオリコンチャート トップ10入り、前人未到の東京ドーム公演を成功させるなど本当にメジャーとインディーズの壁を取っぱらいましたからね。
”15で選べって言われた極道かラッパー
極上な葉っぱ吸ってもブレねぇ目標があんだよ”
これもリアルなのでしょう。こんなバースを蹴れるのはT-Pablowしかいないです。
高校生ラップ選手権【T-Pablow vs かしわ】
高ラ史上最も人気のバトルの一つです。事実上の決勝戦とも言われたこの試合ですが、やはりT-Pablowのパンチ力が1枚上手でした。
”もう飽きちまったよ大阪の即興
俺のほうが似合う王様の称号”
何度も言いますが、こんな言葉T-Pablow以外言えませんからね。他の人が言っても滑稽なワードだけど、T-Pablowが言うとほんとにそう聞こえますからね。絶対的なスターですよね。
最近でもFSLでのR指定との熱戦や凱旋MCバトルでの無双など、いつも私達を沸かせてくれるような期待を裏切らないラップをしてくれる稀有な存在と言えます。
曲でもスター性を魅せるT-Pablow
Kawasaki Drift
誰もが知ってるBAD HOPの代表曲。そしてこの曲を有名にした、あまりにも強烈すぎるパンチラインこそが
”川崎区で有名になりたきゃ 人●すかラッパーになるか”
T-PablowはKawasaki Driftのバースではたっぷりと間をとってラップしているにも関わらずこの重厚感と満腹感。何回聴いてもビートと一体になって出る言葉に痺れますよね。
Bayside Dream
各バースごとのリリックの情景が鮮明に想起され、T-Pablowの完成形と言っても過言ではない曲です。特に、最初のバースの
”俺らBay Side出身 潮風で錆びる夕陽
口より手が出ちゃう友人 シノギは恐喝が中心
港町出てCruising 葉巻をカットしてBlazing
クルーザーの上でPoppin それでも酔わない”
初期の攻撃的なリリックも大好きですが、こういう表現まで手が届くのかという驚きがありました。T-Pablowの声ともバッチリハマっているので作品として大好きな曲です。
ANARCHY- Where We From feat.T-Pablow
ANARCHYの作品にfeatした曲です。向島と川崎、新旧の悪のカリスマがコラボした感じがしてとてもかっこいいです。
”ガキも知ってるPablow
Family Brother それと Hoe
遊び 戦争 どっちも 命を賭けろ”
ここの乗り方がすごく気持ちよく、闘志が湧いてきます。
Home Boy
最後に紹介するのはこの曲。初のソロアルバム「Super Saiyan 1」収録の曲であり、フリースタイルダンジョンでT-Pablowの入場曲にもなっていた曲です。個人的にこの曲は特に思い入れがあります。というのも、この曲は僕の長女が1歳半の時に初めて童謡以外で歌った曲だからです。うろ覚えながらに「おーぼーい!」とチャイルドシートから歌っている可愛い娘を思い出して、将来咽び泣く日が来るんだろあなぁ…大きくなったらこの曲好きだったんだよって教えてやろうと思います。結婚式の入場曲にしてくれたら激アツですよね。
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