誰も知らない明日を切り拓く ── kaneeeという才能

入門シリーズ

目次

「今、日本語ラップが面白い」。そんな言葉が少しずつ定着しつつあるなかで、次なる波の先頭に立とうとしている男がいます。その名は Kaneee

彼の名前を初めて聞いた人も、あるいは最近どこかでその名を目にして気になっていた人も、このブログを読み終える頃には彼の音楽に惹きつけられていることでしょう。その理由は明快──Kaneeeは“今”を映し、“これから”を切り拓く才能であるからに違いないからです。

生い立ち〜ラップを始めたきっかけ

  • 幼少期~小学校時代
    2000年に北海道札幌市で生まれたKaneee(本名:金井ニキタ)は、音楽好きの父とヒップホップダンサーの母のもとで育ちました。自宅には常にレコードやヒップホップの映像があり、幼い頃から洋楽/邦楽を問わず多彩な音楽に触れていたと言います 。
  • EMINEMとの出会い
    小学校時代、ふと手に取ったギネスブックでEMINEMの存在を知り、そのリリックのストレートさとフロウに衝撃を受けました。この体験が、後に「自分も言葉で勝負したい」と思う原点のひとつになったようです 。
  • 中学~高校時代:バンド活動
    中学校・高校ではバンド活動に熱中。ギターやボーカルを担当し、ライブハウスへの出演経験も重ねていきます。当時はロックやR&Bに傾倒していましたが、「ステージに立って声を届ける楽しさ」を肌で知ったことが、後のラップ表現にも活きています 。
  • 大学進学と人生の転機
    高校卒業後、立教大学に進学。2022年1月、父と弟を立て続けに亡くすという大きな喪失を経験し、「言葉に込める思いをもっと強くしたい」という思いが芽生えます 。
  • ラップとの本格的な出会い
    大学2年の夏、友人たちと渋谷のクラブで過ごす中、「今日から曲作っていこう」と自らに宣言。2022年8月1日に初めてラップ曲の制作に着手し、わずか数曲をデモとして完成させました。その中から3曲を『ラップスタァ誕生2023』の応募映像に採用し、オーディションにエントリーしています 。
  • 短期間での急成長
    ラップを始めてから半年あまりで『ラップスタァ誕生2023』に出演。YZERRから“きちゃったんじゃないですかね”と称されるほどの才能を見せつけ、一躍シーンの注目株となりました 。

楽曲のスタイル

kaneeeのサウンドを一言で言うなら、「ヒップホップの骨太なグルーヴに、エモーショナルなメロディと言葉が共鳴する融合体」です。以下、3つの視点から深掘りします。

1. ビート感とジャンル横断

  • ジャズ/ソウルの香り
    代表曲「Life Is Romance」では、ピアノとストリングスが紡ぐ生演奏的なトラックを採用(プロデューサー:STUTS)。そこにkaneeeの柔らかいラップが乗ることで、クラシカルなジャズ・ソウルがHIP‑HOPに昇華されています。
  • トラップからブーンバップ、クラウドラップへ
    「Young Boy」では808ドラムと高速ハイハットを効かせたトラップビート、「Canvas」では硬質なブーンバップ寄りのビートを選択。曲ごとのビートチェンジが、リスナーに毎回新鮮な驚きを与えています。

2. フロウとメロディの共生

  • “歌うラップ”の歌心
    Kaneeeは“ラップだけ”でも“歌だけ”でもなく、両者をシームレスに行き来するのが特徴。Aメロでは語りかけるようにリリックを紡ぎ、サビではメロディラインを強調する——こうした緩急の付け方が、感情の起伏をよりドラマティックに演出します。
  • 抑揚のコントロール
    言葉選びの節回しやピッチの上下で、リスナーの胸に直接働きかける技術が光ります。切なさを帯びた語りを、次の瞬間にグッと解放して希望へと昇華させるシークエンスが、Kaneeeの“胸を掴む”真骨頂です。

3. リリックテーマとパーソナルな背景

  • 「喪失と再生」
    家族との死別体験を経て、言葉に宿る重みを深く理解したKaneee。その喪失感を吐露する一方で、「次に生きるんだ」という強い意志を歌詞に込めることで、暗闇の中に差す光を鮮烈に描き出します。
  • 等身大の視点と普遍性
    恋愛、葛藤、日常の小さな幸せ──身近な出来事を切り取り、誰もが共感できる“普遍的な物語”に仕立てるリリシズムは、彼の楽曲を単なる“個人の告白”に留めず、多くのリスナーの心を動かす要因です。

このように、kaneeeのスタイルは「ジャンルをまたぎつつ、歌心とリリシズムを武器にエモーションを掻き立てる」ことにあります。次に聴くときは、ビートの細部、フロウの抑揚、そしてその背景にある“彼自身の物語”にもぜひ意識を向けてみてください。

最初に聴くべき曲5選

1. Life Is Romance

タイトル通り「人生を肯定するロマンス」として描かれる一曲。エモーショナルなストリングスとミニマルなビートが相まって、リスナーの心に染み入ります。

2. Canvas

Kaneeeが“世界に自己紹介”した記念碑的シングル。STUTS制作による温かみのあるピアノループに、彼のフロウが優しく溶け込む。

3. Young Boy

  • 「ICON」EPの中でも特に映像作品が話題になった1曲。STUTSのビートに乗せ、21歳~22歳の焦燥と希望をリリックに落とし込んでいる。

4. SHIBUYA

「都会の孤独と絆」をテーマにしたナンバー。都会的なトラックとhookの「Stay tonight」のフレーズが強烈に耳に残る。

客演に参加した作品たち

 1.BAD HOP「We Rich (feat. G‑k.i.d, Yellow Pato, Kaneee & KOWICHI)」

  • 伝説のクルーBAD HOPによる一曲。Kaneeeは中盤から登場し、G‑k.i.dやYellow Patoのエネルギッシュなラップに続いて、しなやかなメロディフローで曲に彩りを与えています。攻撃的な808ビートの中に、彼特有の“柔らかくも熱い”リリックが映える、コントラストの妙を楽しめるトラックです。
  • 2. ¥ellow Bucks「Blessed (feat. Kaneee)」
  • ¥ellow Bucksの成熟を感じさせるミドルテンポ・トラックで、プロデュースはZen Masuta。Kaneeeはブリッジを担当し、透き通るようなメロディセンスと、リスナーを肯定するリリックで楽曲に羽を与えています。裏で動く緻密なピアノループと相まって、心地よい浮遊感を演出する一曲です。MVではパッと見どっちがどっちかわからないです。
  • 3.SANTAWORLDVIEW「Better Days (feat. Kaneee)」
  • プロデューサーSTUTSによるエモーショナルなビートに、Kaneeeが“明日への祈り”を乗せたコラボレーション。イントロのシネマティックなピアノから一転、サビで開放感のあるドロップへと展開し、リスナーをポジティブに鼓舞します。MVではSHVUN監督による映像演出も話題を呼び、両者の化学反応が高く評価された一曲です

これからのkaneeeに期待すること

  • kaneeeの魅力は、その音楽だけにとどまらない。彼は「自分を信じること」の大切さを、言葉と音で伝えてくれるアーティストです。

バズよりも信念、過激さよりも誠実さ、自己主張よりも共感──そんな時代のムードを逆行する存在として、これからの日本語ラップシーンを牽引していくことは間違いないでしょう。

もし、あなたが「最近いい音楽に出会えていないな」と思っていたなら、まずはKaneeeの曲を1曲、聴いてみてほしい。再生ボタンを押した瞬間から、日常の風景が少し変わって見えるはずです。

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